豆の音を聴け

すごい音がした。
1ハゼの破裂音が火花のようにはじけた。
2ハゼもまた活きのいい音だった。
豆たちの叫びは、2ヶ月間焙煎から離れていた僕を再びこの世界に呼び戻した。
 
2時間前の話だ。
僕はこたつに入り、Statler Brothers の New York City を聞きながらハンドピックをしていた。
こうしてハンドピックをするのは実に2ヶ月ぶりだ。
こたつは暖かかったが、部屋の冷たい空気は僕の指を静かに刺した。
途中2度ほどお湯で手を洗いながらハンドピックをこなして、150gの豆を焙煎器に入れた。
 
豆はコロンビア・有機ラチェラ、焙煎器はいつもどおりアウベルクラフトだ。
 
火は強めにした。寒かったし、そういう気分だったから。
友達の女の子とメールをしながら片手で焙煎。
 
「今から焙煎を始めます。」
「焙煎しないでください。」
「香ばしい匂いが漂ってきました。」
「換気扇を回しましょう。」
「コーヒー豆が焼き上がりました」
「じゃあさっそく土に返しましょう」
 
会話は成り立っても、意志が通じるとは限らない。
豆たちはざまあみろとばかりにハゼ音を大きくした。
 
焼き上がりはやや浅め。表面には殆ど油がない。
音の激しさに気圧されて少し早くあげすぎたのかも知れない。
まあ、飲めば結果は自ずと分かる。
 
チャフを片付けながら僕は、久々の匂いを感じた。