豆の音を聴け

「完璧な珈琲なんて存在しない。完璧な満足が存在しないようにね。」

僕がそんな言葉を耳にするのはもっとずっと後の話なのだけれど、とにかくこれはそれなりにウィットに富んだ言葉なのかもしれない。

うん。確かに完璧な満足が存在しないように、完璧な珈琲なんて存在しない。
でも僕は豆を焼いた。
豆を焼く行為というのはそれ自体とても楽しいものだ。
豆は徐々に色が変わり、あたりに薄皮が飛び散り、部屋には煙と焦げたにおいが充満する。
巧く焼ければいい。巧く焼けないときは悲惨だ。
火傷。渋味。焦げ臭さ。ゴミも散らかる。


半年間、僕は豆を焼かずにいた。
半年、たいした時間じゃない。
豆を焼いていた時期と同じぐらいだ。
半年くらい豆を焼いて、僕は焼くのをやめた。
ある日、買い置きしていた生豆が切れた。
それが半年前の話だ。


それから半年後。金曜日の午前中に僕は豆を買った。
ワイルド珈琲.com
コロンビア 有機ラチェラ
ブラジル クルゼイロ


豆は土曜の朝に着いた。
すぐに焼いた。
豆は2度はぜる。
007は二度死ぬ


We only live twice.


1ハゼは9分50秒
2ハゼは12分40秒
13分で焙煎を止めた。


その日の夜は飲んだ。
その次の日は論文を書いた。
その次の日は今日だ。


焙煎は浅め。やや酸味を感じる。
匂いは甘い。誰が言ったかチョコレートのフレーバー。


もう一度焙煎について書く。
豆を焼くのは楽しい。
少なくともその十数分はそれだけができる。
終えたら火からあげてさます。
ドライヤー。団扇。扇風機。
空冷。


豆を焼く前には、ハンドピックをする。
かびた豆や割れた豆、その他不良の豆を除去する。
虫食いがある。 青カビがついている。 小さすぎる。
欠点豆。
取り除いた豆たちは捨てる。ぱらぱら。


1時間以上かけて選別して、15分足らずで焼く。
10分20分かけて抽出して、15分足らずで飲む。


趣味にする気がなければ店へ行く方がいい。
嗜好品は嗜好するから嗜好品。

bis cafeに行こう。